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大分地方裁判所 昭和46年(行ウ)3号 判決

大分市長浜町三丁目六番三号

原告

葛城啓三

右訴訟代理人弁護士

臼杵勉

内田健

大分市中島西一丁目一番三二号

被告

大分税務署長

渡部喜代美

右指定代理人

田中清

山下碩樹

水野隆昭

森武信義

山本輝男

岩下輝義

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告が原告の昭和四〇年分の所得税につき昭和四四年三月五日になした更正処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  原告は、被告に対し、昭和四〇年分の所得税について昭和四一年三月一二日に確定申告をし、昭和四二年三月九日に右確定申告の修正申告をした。

2  被告は、昭和四四年三月五日総所得金額を二、四九九万六、五〇一円と更正し、原告の異議申立に対し、同年六月二三日これを二、二七〇万七、四一一円と減額する旨の決定をし、更に原告の審査請求に対し、熊本国税不服審判所長は昭和四六年五月三一日総所得金額を一、九一四万八、七三一円とける旨の裁決をした。

3  しかし、右裁決により取消された部分を除いても被告がした総所得金額に対する更正処分は、原告の所得を過大に認定したもので違法である。

よって、被告がした更正処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実は認めるが、同3は争う。

原告の昭和四〇年分の所得税につき被告がなした更正処分は、被告の主張の項で述べるとおり、裁決によって取消された部分を除き適法である。

三  被告の主張

1  原告の昭和四〇年分所得税の確定申告額、修正申告額、被告の更正決定額および異議決定額ならびは国税不服審判所長のなした裁決額と被告の主張額を示すと別表(一)のとおりである。

2  原告の昭和四〇年分所得税の事業所得の金額について、原告の主張額と、それに対応した被告主張額および差額を示すと別表(二)のとおりである。

3  総収入金額七、九九八万二、七九六円について

(一) 原告の昭和四〇年分所得税の事業所得の金額の計算上総収入金額は七、九九八万、七九六円である。

(二) 原告はこれに対し、総収入金額は七、八二二万九、七一六円であると主張し、その理由として別表(三)の1の土地は昭和四〇年三月三〇日付をもって大分県に道路敷として一七五万三、〇八〇円で収用され、その代替地として別表(三)の2の土地を取得した。この取得土地は、昭和四四年法律第一五号による改正前の租税特別措置法(以下「措置法」という。)第三一条第一項の代替資産に該当するから、譲渡所得として課税延期(譲渡資産の譲渡がなかったものとする。)の適用を受けるとする。

(三) しかしながら、前記の大分県に売却した土地は、原告の不動産売買業における「たな卸資産」に該当するから、本土地の売上金額一七五万三、〇八〇円については措置法第三一条第一項の適用はない。

4  必要経費六、〇四三万四、〇六五円について

(一) 原告の昭和四〇年分所得税の事業所得の金額の計算上総収入金額から差引く必要経費は、売上原価四、八七六万二、六七〇円と、販売費および一般管理費一、一六七万一、三九五円の合計額六、〇四三万四、〇六五円である。

(二) 売上原価四、八七六万二、六七〇円について

(1) 売上原価は、資産の取得価額の合計額四、二三三万九、二五三円に、当該資産の取得に要した費用の合計額五七万四、九〇〇円を加算した四、二九一万四、一五三円と、売上原価に算入される土地造成費用三〇〇万四、三一一円および取得仲介手数料二六一万八、一八〇円ならびに代書料二二万六、〇二六円との合計額四、八七六万二、六七〇円である。

なお、資産の取得価額四、二三三万九、二五三円は、これに関する原告の主張額四、一二九万五、七五三円に、別表(三)の1の土地の取得価額一〇四万三、五〇〇円を加算した金額である。

(2) 原告は、不動産の取得時から売却時までの経過利子一六万二、六七六円を必要経費に算入すべきであると主張する。

しかしながら所得税法第二七条第二項は「事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。」と規定し、さらに必要経費については同法第三七条第一項で「当該収入金額を得るために直接要した費用の額およびその年中における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く)の額とする。」と規定している。

従って、当年前に発生したものとしての経過利息を売上原価に加えて必要経費として控除することはできない。

(三) 販売費および一般管理費について

(1) 販売諸経費二三六万一、二一〇円の否認について

原告は、別表(四)の土地の売却先湯布院町に対し一二七万〇〇〇〇円のマイクロバスを寄付したうえ、さらに右土地の売却代金の受領に当り原告は、債務者湯布院町が別府信用金庫から借入れた資金をもってその支払いを受けたので、原告が当該借入金の支払利子一〇九万一、二一〇円を負担している。よってこの合計額二三六万一、二一〇円を必要経費として控除すべき旨主張するが、原告のこれらの支出は昭和四一年七月二日に確定したものであり、昭和四〇年中の必要経費とならないから否認する。

(2) 出張旅費否認三万六、五七〇円について

原告主張額一九万七、一九〇円には、国税庁に出張した昭和四〇年一一月二〇日から同月二二日までの旅費二万八、一七〇円および国税局に出張した同年一一月二五日から同月二六日までの旅費八、四〇〇円が含まれており、これはいずれも所得税に関する息訟上の費用であり所得税法第三七条(必要経費)に該当しない支出であるから否認する。

(四) 貸倒損失二、一六〇万円の否認について

(1) 原告は昭和四〇年以前に訴外小野寿鋼機株式会社(以下小野寿鋼機という。)に対する土地取得のための前渡代金二、一六〇万円が昭和四〇年中に回収不能となったから、事業所得計算上の必要経費に算入すべき旨主張する。

(2) 原告は右土地代金を前払した経緯について、昭和三八年七月一六日付、当事者甲小野寿鋼機株式会社代表小野寿市、同代表小野金二郎、当事者乙原告、立会人加藤真一郎によって覚書を作成し、別表(五)の物件を取得することを約した旨を申し出た。

(3) 右の原告申出に対して調査したところ、右貸倒損失となった二、一六〇万円を支出した事実についての信憑性は疑わしく不動産の購入代金の前渡金として右金額を支出した事実はとうてい認めることはできない。

(4) 仮に、原告の申出のとおり二、一六〇万円の支出があり、それが回収不能になったとしても、右貸倒金は原告の不動産売買業の所得金額の計算上の必要経費には算入されない。

けだし、右支出金は不動産購入のための前渡金ではなく、いわゆる非営業貸金の金銭債権ともいうべきものであって、その回収不能による損失は所得税法第三五条の雑所得の金額の計算上の必要経費に該当するから、同法第五一条第四項により雑所得の金額(同項の規定を適用しないで計算した金額)を限度として昭和四〇年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきものである。

しかしながら、原告は昭和四〇年分所得税において、雑所得計算上の総収入金額はないから、必要経費として控除し得ないことになる。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張の1及び2の各事実は認める。

2  同3及び4の各主張事実のうち、課税の基礎となる事実関係及び法律の適用に関する原告の主張として挙示する部分は認めるが、その余は否認し、法律上の主張は争う。

なお事業所得の必要経費のうち、備品消耗品費が被告主張のとおりであることは認める。

3(一)  原告は別表(三)の1の土地を取得した当時不動産売買業を開業していなかった。原告は、昭和三五年以前にも酒造業や山林経営の目的で多くの土地を取得している。

(二)  原告は、右土地を原告の長男が医師になったときまたは原告の次女を医師に嫁がせたときの病院経営のための用地として取得したものであり、不動産売買を目的として取得したものどはない。

(三)  更に右土地は、県道敷として余儀なく収用されたものであり、原告はそのころその代替資産を取得している。

(四)  また右土地の残地(七七・七四坪)は、一二年余にわたって原告が保有していたものであるから、原告がたな卸資産として短期に転売した土地とは明らかに性格を異にしているのである。

4  原告は、別表(四)の不動産の売却に際し、買主である湯布院町に対し、一二七万円のマイクロバスを寄付し、更に湯布院町が別府信用金庫から借り入れた金員でもって土地代金を支払ったので、同金庫に対する支払利子一〇九万一、二一〇円を原告において負担することを約した。

右のマイクロバスの寄付及び利子負担は、もし原告が拒絶すれば、土地売買取引が成立しないことは明らかであるから、原告が売却代金四、〇〇〇万円を得るために直接要した費用すなわち事業所得の必要経費であることは疑を容れず、またそれが昭和四〇年分の右土地の売上に対応する昭和四〇年分の必要経費となるべきことは、当然のことである。

よって右合計二三六万一、二一〇円を必要経費として控除すべきである。

5  原告は、小野寿鋼機から別表(五)の不動産を購入取得するため、昭和三八年七月二〇日から昭和四〇年二月二二日までの間に合計金二、一六〇万円を同社に支払ったが、小野寿鋼機が破産したため右不動産を取得することができず、支払金も昭和四〇年中に回収不能となった。

右は、原告の事業所得の計算上、不動産の買入れに関する貸倒損失として必要経費に算入されるべきである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一、二号証の各一ないし三、第三、四号証の各一、二、第五号証の一ないし六、第六号証の一ないし五、第七号証の一ないし九、第八ないし第一五号証、第一六号証の一ないし四、第一七号証、第一八号証の一、二、第一九号証、第二〇号証の一ないし三、第二一ないし第二三号証、第二四号証の一ないし四、第二五ないし第三六号証、第三七号証の一ないし五、第三八号証の一、二、第三九号証の一ないし三、第四〇号証の一ないし一二、第四一ないし第四六号証

2  原告本人

3  乙第一〇号証の一、二、第二五号証の一、二、第二六ないし第二八号証、第三一ないし第三六号証、第三八、三九号証、第四〇号証の一、二、第四一号証、第五二号証、第六八号証、第九一号証、第九六号証、第九八ないし第一〇一号証、第一〇三、一〇四号証、第一〇五号証の一ないし四、第一〇六号証、第一〇七号証の一ないし四、第一〇八号証、第一〇九号証の一、二、第一一〇ないし第一一七号証、第一一八号証の一ないし八の成立は不知。その余の乙号各証の成立は認める(第一三二号証は原本の存在及び成立とも)

二  被告

1  乙第一五号証の一、二、第四ないし第六号証、第七号証の一ないし九、第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一、二、第一一ないし第二四号証、第二五号証の一、二、第二六ないし第三六号証、第三七号証の一ないし五、第三八、三九号証、第四〇号証の一、二、第四一号証、第四二、四三号証の各一ないし三、第四四号証の一ないし九、第四五号証の一ないし四、第四六号証の一ないし三、第四七号証、第四八号証の一、二、第四九号証の一ないし四、第五〇ないし第五三号証、第五四号証の一ないし三、第五五号証の一ないし四、第五六ないし第八九号証、第九〇号証の一、二、第九一ないし第九三号証、第九四号証の一ないし三、第九五ないし第一〇四号証、第一〇五号証の一ないし四、第一〇六号証、第一〇七号証の一ないし四、第一〇八号証、第一〇九号証の一、二、第一一〇ないし第一一七号証、第一一八号証の一ないし八、第一一九ないし第一三三号証

2  証人石井章道、同岩本靖

3  甲第七号証の一ないし九、第八ないし第一〇号証、第一五号証、第一七号証、第一八号証の一、二、第一九号証、第二〇号証の一ないし三、第二一ないし第二三号証、第二五ないし第二九号証、第三二ないし第三六号証、第三七号証の一ないし五、第四一ないし第四五号証の成立は認める(ただし、第四四、四五号証は原本の存在とも)。その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  請求原因1、2の現実は当事者間に争いがない。

二  そこで本件更正処分の適法性について判断する。

被告の主張の1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。

そこで同3及び4の各主張事実及び法律上の主張について順次検討する。

なお原告の事業所得の必要経費のうち、備品消耗品費が被告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

1  別表(三)の1の土地がたな卸資産であって、その譲渡による所得が事業所得に属するか否かについて

(一)  原告が右土地を含む一筆の土地を昭和三八年六月一九日村山亀生から代金三〇〇万円で購入したこと、右土地が昭和四〇年三月三〇日付で大分県に代金一七五万三、〇八〇円で買収されたことは当事者間に争いがない。

(二)  成立に争いのない乙第六五ないし第六七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は酒造業を営んでいたが、昭和三六年八月ころ右酒造業を廃業し、昭和三九年八月以降は不動産売買業を開業したことが認められる。

(三)  原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和二八年から昭和三四年までの間に二〇数筆の土地を購入していることが認められ、また、昭和三五年から昭和四〇年までの間の原告の土地の売買状況は別表(六)のとおりであることが認められる。

(四)  右土地の取得時である昭和三八年に原告が取得した他の土地の売買状況をみるに、成立に争いのない乙第五三号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第五二号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和三八年に取得した土地のうち、大半の六〇筆余りを昭和三八年または昭和三九年中に譲渡していること、また、その余の土地も昭和四五年までにはすべて譲渡していることが認められる。

(五)  原告が昭和四〇年中に譲渡した他の不動産については、これによる収入を事業所得として申告している。

以上の事実を総合すれば、原告は少なくとも昭和三八年以降は不動産売買業の実体を備えていたと認めることができ、したがって、昭和三八年に取得し、昭和四〇年に買収された別表(三)の1の土地については、これをたな卸資産の譲渡とみるべきである。

原告は、右土地を長男または次女の嫁先の病院用地として取得したものであると主張し、これにそう原告本人の供述があるが、原告の長男が医師になることや次女が医師に嫁ぐ蓋然性が右土地取得当時あったと認められる証拠はない。また原告は、右土地は、大分県により道路敷として買収を余儀なくされたと主張するが、右土地は、大分市中島地区の市街地内にあり、幅員二四メートルの中島地区臨海産業道路と幅員八メートルの大分市道の交差点に位置しており、右土地が右のような位置関係にあれば、道路敷として買収されることも予期しうるところと考えられ、更に、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二、一三号証によれば、原告は右土地の残地を昭和五一年一月一〇日に原告が経営する葛城産業株式会社に譲渡し、次いで同会社が同年二月二日にこれを福山陽二郎に譲渡していることが認められ、これらの事実はむしろ本件土地がたな卸資産であることを推認させるものであり、その譲渡による所得は事業所得に計上されるべきである。

2  事業所得の必要経費について

(一)  原告が出張旅費として申告した三万六、五七〇円が原告の所得税に関する紛争処理のための旅費であることは当事者間に争いがない。そこで右旅費が事業所得の必要経費に該当するか否かを検討するに、所得税法三七条一項において必要経費とは、「売上原価その他その年において事業所得の総収入金額を得るために直接要した費用及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用」である旨規定しており、旅費については、それが業務の遂行に直接必要なものである場合にこれが必要経費となると解すべきところ、原告の所得税に関する紛争処理のための旅費は、原告の事業における業務の遂行に直接必要なものとは認めることができず、これを必要経費と認めることができない。

(二)  次に支払利息について判断する。

借入金をもって土地を購入した場合に支払った利子は、これを売上原価に算入することができると解すべきであり、右利子が前年度以前に発生しているとの理由で必要経費として控除することができないものではないと解される。

しかし右支払利子が必要経費にあたるとするためには、原告において個別的、具体的に各土地取得についての金員の借入状況、利息の支払状況を明確にすべきであり、ただたんに土地取得時と売却時との間に日月の差があるというだけで、その間の利子相当額が必要経費になるものではないと解されるところ、右の点が明確でない本件においては、被告が昭和四〇年分の現実支払利息の総額についてのみこれを必要経費としたことは適法というべきである。

(三)  次に別表(四)の土地に関する販売経費について判断する。

成立に争いのない甲第四四、四五号証、同乙第三七号証の一ないし五、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四六号証及び原告本人尋問の結果を総合すると、原告は右土地を昭和四〇年一一月一〇日に訴外湯布院町に代金四、〇〇〇万円で売渡す旨の売買契約を同町との間に締結したこと、その際代金の支払については、「契約の日から向う一ケ年以内に全額の決済を終るものとする。但し双方協議の上、次により交換の方法をとることができる。1、大分郡湯布院町大字川西字ユム田一二〇〇番地の六原野一〇町五反三畝二一歩2、金員八〇〇万円也」との約定がなされたこと、原告は昭和四一年三月同町から売買代金の内金八〇〇万円を受領し、同年七月三〇日残代金三、二〇〇万円から、同町の要望により原告が同町に寄付することとなったマイクロバス一台の代金一二七万円及び銀行利子負担金一〇九万一、二一〇円を差引いた金二、九六三万八、七九〇円を受領したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実に照らすと、昭和四〇年中には、原告は湯布院町に売渡した別表(四)の土地の対価を全額金銭で取得するか一部は土地、一部は金銭で取得するかはいまだ確定していなかったものであり、それが確定したのは昭和四一年七月であり、右の収入の確定とともにマイクロバスの代金一二七万円及び利子負担金一〇九万一、二一〇円の出捐も必要経費として確定するに至ったものというべきである。

そうすると右必要経費を昭和四〇年中に確定したものではないとしてなした被告の更正処分は適法というべきである。

なお右土地の売買による原告の収入を昭和四〇年分の事業所得とすることの適法性については、当事者間に争いがない。

(四)  次に貸倒損失について判断する。

成立に争いのない甲第一〇号証、同乙第六号証、同第七号証の一ないし九、同第一一ないし二一号証、同第二四号証、同第二九、三〇号証、首藤幸則及び小野和夫の各作成部分については、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと推定すべく、その余の部分は、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二七号証、同第三一号証、証人岩元靖の証言により真正に成立したものと認められる乙第三二、三三号証、同第三五号証、証人石井章道の証言により真正に成立したものと認められる乙第三四号証、証人石井章道、同岩元靖の各証言及び原告本人尋問の結果を総合すると、別表(五)の不動産は、もと訴外小野寿市の所有であったが、昭和三一年に同訴外人の長男訴外小野淳一郎が経営していた訴外合資会社小野寿機材店の負債整理のため訴外住金物産株式会社に売却されたこと、その際右訴外小野寿市と右訴外住金産株式会社との間に、将来買戻資金の調達ができたときは、右物件を買戻す旨の約束がなされたこと、昭和三八年に至り、右訴外小野寿市の次男で小野寿鋼機の実質的な経営者であった訴外小野金二郎は、右約定に着目し、右訴外住金物産株式会社から右物件を低廉な価格で買受け、大半は売却して差益を得ることを意図し、買受資金の調達について訴外小野寿市の次女の夫である原告に相談したこと、その結果昭和三八年七月一八日原告と訴外小野金二郎との間に、同訴外人は右物件を訴外住金物産株式会社から買受けてこれを原告に代金二、一六〇万円で売渡すこと、原告は右売買代金を前渡しすることの合意が成立し、右の合意に基づき原告は右訴外小野金二郎に、同年七月二〇日金一、〇〇〇万円、同月二五日金三〇〇万円、同年八月八日金一五〇万円、昭和三九年二月二八日金四〇万円、同月二九日金五〇万円、同年八月二二日金八〇万円、昭和四〇年二月二二日金九〇万円をいずれも現金で支払ったほか、右訴外人の金融業者からの借入金を原告が弁済するという方法で昭和三九年一二月一二日金二五〇万円、昭和四〇年一月二二日金二〇〇万円を支払ったこと、訴外小野金二郎は昭和三八年九月二三日訴外住金物産株式会社との間に、別表(五)の不動産を含む土地一〇筆、建物八筆を代金一、一〇三万二、三八〇円で、訴外小野寿市の長女の夫である訴外加藤真一郎名義で買受ける旨の契約を締結し、右代金を支払い、別表(五)のイないしヘの物件は右訴外人名義に、同ト、チの物件は訴外小野金二郎名義に所有権移転登記をしたことが認められ、右の事実に照らすと、原告が別表(五)の不動産の売買代金の前渡金として訴外小野金二郎に支払った金二、一六〇万円は、原告と同訴外人との間に締結された売買契約に基づく売買代金の前渡金であると認められる。

前記乙第六号証によれば、甲小野寿鋼機株式会社代表小野寿市、同小野金二郎、乙葛城啓三、立会人加藤真一郎の各記名押印のある昭和三八年七月一八日付の覚書と題する書面が存在し、右書面には小野寿鋼機が訴外住金物産株式会社から別表(五)の物件を買戻し、原告に売渡す旨記載されていることが認められるけれども、他方前記認定のとおり、訴外住金物産株式会社との間に買戻しに関する約定をしていたのは訴外小野寿市であり、小野寿鋼機ではないこと、買受けた物件の所有権移転登記は訴外小野金二郎又は訴外加藤真一郎になされていることが認められ、右事実と対比すると、右乙第六号証の記載は、いまだ原告との間に右物件の売買契約を締結したのは、訴外小野金二郎であるとの前記認定を覆すに足りず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

そして前記乙第一一ないし二一号証によれば、別表(五)の不動産は、小野寿鋼機の訴外住金物産株式会社に対する債務の代物弁済として昭和三九年一月一五日同訴外会社に譲渡されており、原告に対する売買契約の履行はできなくなっていることが認められるけれども、原告の右訴外小野金二郎に対する売買代金返還請求権が回収の見込がないことが昭和四〇年中に確定したことを認めるに足る証拠はないから、原告が別表(五)の不動産の売買代金の前渡金として支払った金員について、これを貸倒損失に当たらないとした被告の更正処分は、適法というべきである。

三  以上のとおりであって、原告の昭和四〇年分の所得税につき昭和四四年三月五日に被告がなした更正処分は、その後の異議決定及び裁決により変更された部分を除き適法と認められる。

よって原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井義明 裁判官 白井博文 裁判官 塚本伊平)

別表(一)

〈省略〉

別表(二)

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別表(三)

1 大分市大字大分字天神島六四九四-一

一畑 一二〇歩

(昭和三八年六月一九日取得価額三〇〇万円売主村上亀生)

のうち四一・七四坪

2(1) 大分市大字上戸次長川原 雑主地 六〇〇坪

昭和四〇年七月三日取得 価額 八〇、〇〇〇円

売主 馬尻至

(2) 別府市大字南石垣字石田一二七三番の二 出 二九、五〇坪

昭和四〇年七月一五日取得 価額 一、四五〇、〇〇〇円

外取得経費 四三、五〇〇円

売主 弥田トミエ

別表(四)

大分県大分郡湯布院町大字川四字ユム田一二〇一-一

一原野 一〇町歩

別表(五)

(1) 物件(土地)

イ 大分市塩九升一四三六 宅地 一三六坪

ロ 〃 一四三九-五 〃 九二坪二五

ハ 〃 一四四〇-二二 〃 八三坪

ニ 〃 一四四〇-一七 〃 二七坪

ホ 〃 五二五八-一四 〃 二坪六八

(右(イ)ないし(ホ)計 三四〇坪九三)

ヘ 大分市大字大分古池尻三八七三-三

宅地 一五〇坪

ト 大分市字勢家京泊一三六〇 〃 九八坪

チ 〃 一三六一 〃 一一二坪

(2) 物件(建物)

右(1)のイないしホの土地上に建築してある建物一式

別表(六)

〈省略〉

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